先日、高殿円さんの長編小説『政略結婚』を読み終えました。この作品は、江戸時代から昭和にかけての日本の「家制度」と、その渦中で生き抜いた女性たちの政略結婚を、鮮やかな筆致で描いた歴史大河ロマンです。
歴史物が苦手だった私でも、主人公たちの力強い生き様と、当時の常識とのギャップに引き込まれ、一気に読み進めてしまいました。
📜 現代の常識が通用しない「家」の重み:江戸時代編
物語は、まず江戸時代、前田家を守る姫君の物語から始まります。
歴史が苦手な私にとって、この時代は情報量が少なく、ついていくのに必死な部分もありましたが、当時の「家」を守るためのシビアな現実が、物語を通じて生々しく伝わってきました。
- 「石女」(うまずめ)への烙印と、家を断絶させないための政治的な養子縁組。
- 20代〜30代でも病であっという間に命を落とす、子どもが育つことの難しさ。
- 側室という、倫理的にはアウトながら、「家」を守るための合理的な手段。
現代の私たちが持つ常識や倫理観では到底考えられないことが、当時の武家社会では「家の存続」という絶対的な目標のために、ごく当たり前に行われていたのです。石高や産業振興といった経済的な話も交えられており、「歴史もこんな物語形式ならもっと楽しく学べたのに!」と心から思いました。
🎩 個性が輝き、世界が広がる:一番面白かった明治時代編
作品の中で私が最も面白く感じたのは、明治時代の章です。
パリ万博の時代を背景に、自由奔放な女性主人公が、父と叔父の急死によりすでに決まっていた婚約破棄し、「家」を守るために奔走する姿が描かれます。彼女の生き様は、どこか黒柳徹子さん(トットちゃん)や角野栄子さんを彷彿とさせる、型破りで魅力的です。
この時代もまた、「家」の格が何よりも重んじられていました。学習院、華族、そして新しく財を成した成金貴族への蔑視。文明開化の華やかさの裏側で、厳然と存在する身分や階級の意識が、主人公の心理描写を通じて痛いほど伝わってきます。
🥀 価値観の崩壊を静観する社会:斜陽の昭和時代編
そして、物語は華族制度が崩壊していく昭和時代へと移ります。
それまで華族たちが命を懸けて守ってきた伝統やしきたり、財産が、社会の大きな変化の中で「価値のないもの」として扱われ、特権を失い没落していく様子が描かれます。
特に印象的だったのは、武家出身などの一部の華族は情報や知恵を共有して財産を守ったのに対し、呑気で時代の流れを読めなかった華族が没落していくのを、悲しい気持ちで静観する、という描写です。
今も宮家や、財産を守り抜いた一部の家々が、形は変われどその「家制度」的なものを保っているのかもしれません。映画『彼女は貴族』でも描かれているように、現代にも住む世界が違う「格」のある家が存在することは漠然と認識しているものの、決して交わることのない別世界。
海外セレブとはまた違う、日本の歴史に根ざした上流階級のピラミッド構造について、改めて考えさせられました。

✨ まとめ:高殿円ワールドの深み
高殿円さんの小説は、その時代背景の緻密さ、主人公たちの複雑な心理描写、そして巧みな構成、全てが本当に面白いです。
歴史の知識に不安がある方でも、主人公の女性たちに感情移入しながら、自然と当時の社会や制度を深く理解できる素晴らしい作品だと思います。
『政略結婚』を読んで、同著者のシリーズもの『上流階級 富久丸百貨店』への期待がさらに深まりました。早く続編を読みたい!


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