私が好きな本 伊坂幸太郎「AX」

「恐妻家の殺し屋」兜の生き様に学ぶ、人間関係の教科書

伊坂幸太郎の『AX』は、殺し屋シリーズの三作目にあたる作品でありながら、単なるエンタメ小説にとどまらず、家族や人間関係の本質に迫る一冊です。私がこの本を一番好きな理由は、主人公・兜の「恐妻家」としての姿に、深い哲学と愛情が込められているからです。

兜―最強の殺し屋であり、最弱の夫

兜(かぶと)は業界でも一目置かれる超一流の殺し屋でありながら、家では妻に頭が上がらない典型的な恐妻家として描かれています。仕事では冷静沈着で完璧な仕事ぶりを見せる一方、家に帰れば妻の機嫌を損ねないように細心の注意を払って生活しています。

例えば、夜遅く仕事(=殺し)から帰宅した際、物音を立てて妻の睡眠を妨げるのを極度に恐れ、夜食は音を立てずに食べられるという理由で魚肉ソーセージを選ぶほどです。高校生の息子もそんな父親の姿に呆れつつ、時には絶妙なフォローで父を助ける場面もあります。(本当は妻はそんなに怖くないので極端に妻を恐れる兜に息子は呆れてるんですよね)

「恐妻家」は愛情の裏返し

一見、気の弱い恐妻家として描かれる兜ですが、彼の行動の根底には「家族を守りたい」という強い哲学と愛情があります。殺し屋という裏の顔を持ちながらも、最愛の妻と息子の平穏な生活を守るために日々努力を重ねているのです。

兜は不器用な面もありますが、努力で夫婦仲を良くしようとする姿は、恐妻家というよりも、むしろ妻への愛情が深すぎる人情味あふれるキャラクターとして描かれています。

夫婦関係・人間関係の教科書としての『AX』

私自身、対人関係に悩むことが多いのですが、兜の妻への接し方は「人との接し方の教科書」とも言えるほど参考になります。例えば、妻の話には「大変だね」と相槌を打つことが最も効果的だと兜は学び、それを実践しています。

「妻の話はとにかく、『大変だね』の相槌、一択なんですよ。愚痴はもちろん、疑問形の言葉に対してもね、『大変だねえ』と言うことがもっとも妻を癒します」(兜のボルダリング仲間で恐妻家の松田さんの言葉)

このような細やかな気遣いは、どんな人間関係にも通じる普遍的な知恵だと感じます。

子どもと一緒に楽しむ伊坂作品の魅力

子どもも伊坂幸太郎の本が好きで、我が家ではオーディブルで何度も聴いています。その中でも『AX』は、家族の在り方や人との向き合い方を考えさせられる一冊であり、何度聴いても新しい発見があります。紙の本も、章ごとの印鑑のような印刷もとても好きです。

主人公の兜に気持ちが入りすぎて、途中の展開が自分の意向とそぐわない内容を残念だと思うところもありますが、後半で気持ちが救われる部分もあり、毎回新たな伏線回収させられて伊坂幸太郎はさすがだなーと驚かされます。

まとめ

『AX』は、最強の殺し屋が「最弱の夫」として生きる姿を通して、家族や人間関係の大切さ、そして愛情のかたちをユーモラスかつ切なく描き出しています。恐妻家の兜が見せる細やかな気遣いと哲学は、私にとって人との接し方の理想像であり、これからも何かにつけ繰り返し読み返したい一冊です。

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