
ヤマザキマリさんの生き方から学ぶ「情熱のガソリン」
漫画『テルマエ・ロマエ』で知られる漫画家・文筆家のヤマザキマリさん。テレビやラジオで拝見する彼女は、パワフルで陽気、そして圧倒的な語彙力で人々の心を惹きつける印象です。しかし、そんな彼女の底知れないパワーは一体どこから来るのでしょうか?
先日、私はヤマザキさんのエッセイ『国境のない生き方』(2015年発行)を読み、その答えの一端に触れた気がしました。この本には、私たちが普段目にする「陽キャでパワフル」な彼女からは想像もつかない、波乱に満ちた幼少期や青春時代が描かれています。
本が教えてくれた「世界」と「生き方」
ヤマザキさんは幼い頃に父親を亡くし、音楽家である母親と妹と3人で暮らしていました。型破りな母親に育てられた彼女は、時には知人宅に預けられたり、幼い妹と2人きりで留守番をしたりと、孤独な時間を過ごすことも少なくなかったそうです。
そんな彼女の唯一の拠り所であり、友達でもあったのが「本」でした。
絵を描くことを夢見ていたヤマザキさんに対し、母親は「絵描きは食えない」と反対します。その時に母から渡されたのが『フランダースの犬』でした。絵描きを目指した少年が飢えと寒さで命を落とす物語を通して、「絵を描けばこうなる」と諭そうとしたのです。しかし、ヤマザキさんは絵への情熱を諦めませんでした。
その後も彼女の人生には、困難な場面が幾度となく訪れます。ですがその度、友人や知人が彼女にぴったりの本を差し出し、彼女を導き、支え続けていたことがこの本では描かれています。本は彼女にとって、知識を得るためのツールではなく、生きていく上での道しるべそのものだったのです。
人との出会いがくれた「新しい景色」
このエッセイのもう一つの魅力は、ヤマザキさんの人生に深く関わった人々が実名で登場することです。
14歳で単身ヨーロッパを旅したときにパリで出会ったマルコ爺さん。彼女の絵への情熱をフィレンツェへの留学を勧めたのはこのマルコ爺さんでした。驚くべきことに、その後のヤマザキさんの進路について、彼女の母親とマルコ爺さんは手紙でやりとりをしていたのだとか。
自分にとって大切な人々のことを、ダメな部分も含めて愛情たっぷりに描いている様子からは、彼らへの深いリスペクトが感じられます。
ヤマザキさん自身も、そして彼女を取り巻く人々も、皆が世界中を駆け巡る「情熱の人」です。彼女の母親のポリシーである「感動は情熱のガソリンだから常に動き続ける」という言葉は、まさにヤマザキさんの生き方そのものを表しているように思えます。
私もこの本を読んで、コロナ禍以降、知らず知らずのうちに「省エネモード」になっていた自分に気づかされました。「どうせ自分には無理だろう」と諦めていたことや、面倒だと避けていたことに、もう一度向き合う勇気をもらいました。
メディアで見るマリさんの壮大すぎるエピソードに「大げさでは?」と誇張を疑っていた自分を恥じるとともに、これほどまでに濃厚でドラマチックな人生を、彼女が軽やかに、そして力強く生き抜いてきた理由が少しだけわかった気がします。

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